今回の記事は、立体角の定義とイメージ、Blenderの3Dモデルを使用した実験、電磁気学での計算例についてです。
ある点から見た対象の「見かけの大きさ」や「空間的な広がり」を定量的に表す便利な量が立体角 (Solid Angle)です。次の図のように、目を中心とする球面があって、そこに空に浮かんでいる太陽などの物体が貼り付けられている(射影)と見なすイメージです。

立体角の発想はどうできたのか?
よく知られた平面角(ラジアン)は、
\begin{align}
\theta:=\dfrac{l}{r} \quad(l\,: \text{円弧、}r\,: \text{半径})\,.
\end{align}
そもそも2次元平面でラジアンという無次元量の指標を考えていた理由は、円の大きさ(半径)に関係なく、円弧の「開き具合」(1次元的な量)を同じように測りたいことが動機でした。
それを3次元空間でも同様に考えると、球の大きさに関係なく、空間中にある面の「空間的な広がり、見かけの大きさ、面積」(2次元的な量)を測りたいです。平面上の角度(平面角)が円弧の長さを半径で割って定義されるのに対し、立体角は球面の面積を半径の2乗で割って定義されます。
\begin{align}
\Omega:=\dfrac{S}{r^2}\,.
\end{align}
一般に、$n$次元空間上での立体角は次で定義されます。$S_{n-1}$は$n-1$次元の表面積を表します。
\begin{align}
\Omega_n:=\dfrac{S_{n-1}}{r^{n-1}}\,.
\end{align}
微小立体角
次の電磁気の計算でも使うので、微小立体角を考えておきます。
面積 S が非常に小さい場合、あるいは微小な面積要素$dA$を考える場合、それが張る微小立体角$d\Omega$ を考えることができます。$dA$ の法線ベクトルと、点$\mathrm{O}$から$dA$への方向ベクトル $r$のなす角を$\theta$ とすると、$dA_{\perp}=dA\cos\theta$ が視線に垂直な見かけの面積(射影面積)となります。微小立体角は次のように定義されます。
\begin{align}
d\Omega := \frac{dA_{\perp}}{r^2} = \frac{dA \cos\theta}{r^2}\,.
\end{align}
3Dモデルで立体角を体感する
では、ここで先程述べたことを実験で確かめてみましょう。立体角の定義を体感できます。今回はBlenderを用いました。
実験の手順
シンプルに「空間と平面、それを撮影するカメラを準備して実際に確かめよう」というアイデアです。
- Blenderでカメラを固定する。
- 白色の板を作成し、背景を黒色にする。
- オブジェクトとカメラの距離を離して撮影(レンダリング)し、画像を作る。
- 【距離の場合】オブジェクトの位置を変化させて画像を複数作成する。画像内部の白いピクセル数(見かけの大きさ)を数えて、距離を横軸にピクセル数を縦軸に取ってプロットする。
- 【回転角の場合】オブジェクトの角度を変化させて画像を複数作成する。画像内部の白いピクセル数(見かけの大きさ)を数えて、回転角を横軸にピクセル数を縦軸に取ってプロットする。
この実験をした結果は次の通りです。
実験結果:距離と面積


たしかに、 $\frac{1}{r^2}$ で見かけの面積(ピクセル数)は変わっていました。
各種パラメーターについて検証するなら、カメラのセンサーサイズや板のサイズを変えてプロットして比較するのもありかもしれないですね。
実験結果:回転角と面積


こちらも$\cos{\theta}$ で変化していました。
ガウスの法則における立体角
電磁気学の基本法則であるガウスの法則は、電荷とその周りに作られる電場の関係を示す重要な法則です。特に、点電荷から生じる電場の総量(総電束)を考える際に、立体角の概念を用いています。
真空中に点電荷 $q$ が原点 $\text{O}$ に置かれて状況を考えます。この電荷が、原点からの位置ベクトル $\Bs{r}$ の位置に作る電場$ \Bs{E}(\Bs{r})$ は、クーロンの法則により次のように与えられます。
\begin{align}\label{eq:E}
\Bs{E}(\Bs{r}) = \frac{1}{4\pi\epsilon_0} \frac{q}{r^2} \hat{\Bs{r}} \,.
\end{align}
ここで、$\epsilon_0$ は真空の誘電率、 ${\norm{\Bs{r}}}$は原点からの距離、$\hat{\Bs{r}}:=\frac{\Bs{r}}{\norm{\Bs{r}}}$ は原点からその点へ向かう方向を表す単位ベクトルです。この式は電場が電荷を中心に放射状に広がっていることを表しています。
次に、この電荷 $q $を囲む任意の閉曲面 $S$ を考えます。この閉曲面$S$ 上の微小な面要素を表すベクトルを$d\Bs{A}$ とします(大きさは微小面積、向きは曲面の外向き法線方向)。この微小面要素を貫く微小電束 $d\Phi_E$ は、電場ベクトル $\Bs{E} $と面積要素ベクトル $d\Bs{A}$ の内積で定義されます。
\begin{align}
d\Phi_E = \Bs{E} \cdot d\Bs{A}\,.
\end{align}
これに \eqref{eq:E}を代入すると、
\begin{align*}
d\Phi_E = \left( \frac{1}{4\pi\epsilon_0} \frac{q}{r^2} \hat{r} \right) \cdot d\Bs{A} = \frac{q}{4\pi\epsilon_0} \frac{\hat{r} \cdot d\Bs{A}}{r^2} \,.
\end{align*}
ここで、微小立体角の定義 $d\Omega=\frac{\hat{\Bs{r}}⋅d\Bs{A}}{r^2}$ を使うと、次の関係式が得られます。
\begin{align}
d\Phi_E = \frac{q}{4\pi\epsilon_0} d\Omega\,.
\end{align}
この式は、点電荷からの微小電束が、その電荷から見た微小立体角に正比例することをことを示しています。 比例定数は $4\pi\epsilon_0 q$ です。
ガウスの法則は、閉曲面$ S$ 全体を貫く総電束$ \Phi_E$ を扱います。これは、微小電束 $ d \Phi_E$ を閉曲面$S$全体で積分することで得られます。
\begin{align}
\Phi_E = \oint_{\mathcal{S}} d\Phi_E = \oint_{\mathcal{S}} \frac{q}{4\pi\epsilon_0} d\Omega = \frac{q}{4\pi\epsilon_0} \oint_{\mathcal{S}} d\Omega = \frac{q}{4\pi\epsilon_0} (4\pi) = \frac{q}{\epsilon_0} \,.
\end{align}
これが点電荷に対するガウスの法則です。
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