材料力学における補ひずみエネルギーについて、1次元弾性体の具体例を用いて説明します。
弾性体という呼び方が難しいと感じるなら、単にばねのことだと思ってください。
はじめに、1次元弾性体のひずみエネルギー密度を次式で定義します。
\begin{align}
u(\ve):=\int_0^\ve \sigma(\ve)d\ve\,. \label{ene-e}
\end{align}
ただし、$\ve$ は1次元弾性体の変形した長さを元の長さで割って得られる無次元量(ひずみ)、$\sigma(\ve)$ は弾性体の変形によって弾性体内部に生じる単位面積あたりの力(応力)を表します。
$\sigma$ は入力を独立変数 $\ve$ とする関数であり、$\sigma(\ve)$ は従属変数です。
これは、単位体積あたりの材料内部のエネルギー増加量のことです。
ここで少し単位について確認しておきます。
\eqref{ene-e}は応力 $\sigma\,[\text{N}/\text{m}^2]$ とひずみ $\ve\,[\text{無次元}]$ の積を無次元量 $\ve$ について積分したものなので、$u(\ve)$ の単位は $[\text{N}/\text{m}^2]$ になります。
エネルギーの単位が $[\text{N}\cdot\text{m}]$ であることから、$u(\ve)$ の単位は $[\text{N}/\text{m}^2]=[\text{N}\cdot\text{m}]\cdot [1/\text{m}^3]$ と捉えることができ、これは単位体積あたりのエネルギー量であることがいえます。
線形弾性体の場合(=フックの法則が成り立つ)
1次元線形弾性体の場合、入力がひずみで出力が応力とするフックの法則 $\sigma=E\ve$ ($E$ はヤング率 $[\text{N}/\text{m}^2]$ で、バネ定数のようなもの。)が成立するため、\eqref{ene-e}から、
\begin{align}
u(\ve)=\dfrac{1}{2}E\ve^2\,.\label{ene-e2}
\end{align}
ここで、入力が応力で出力がひずみとするフックの法則の逆 $\ve(\sigma)=\dfrac{\sigma}{E}$ を考えます。
このとき、$\ve$ は入力を独立変数 $\sigma$ とする関数であり、$\ve(\sigma)$ は従属変数です。
\eqref{ene-e2}を次のように変形してみます。
\begin{align}
\widetilde{u}(\sigma)=\dfrac{1}{2}E\Pare{\dfrac{\sigma}{E}}^2=\dfrac{\sigma^2}{2E}\,.\label{ene-s2}
\end{align}
ここで、$\widetilde{u}$ を次式で定義します。
\begin{align*}
\widetilde{u}(\sigma):=\int_0^\sigma \ve(\sigma)d\sigma\,.\label{ene-s}
\end{align*}
このように定義すると、\eqref{ene-s2}が導出されます。
\begin{align*}
\widetilde{u}(\sigma)=\int_0^\sigma \dfrac{\sigma}{E}d\sigma
=\dfrac{\sigma^2}{2E}\,.
\end{align*}
この場合には、次の関係があることは容易に確かめられます。
\begin{align}
\begin{cases}
\dfrac{d u(\ve)}{d \ve}=\sigma,\,\\
\dfrac{d \widetilde{u}(\sigma)}{d \sigma}=\ve\,.
\end{cases}\label{Cas-thm}
\end{align}
これは材料力学においてカスチリアーノの定理と呼ばれる、ひずみエネルギーを外力で微分すると変位が、(フックの法則が成立する場合に)変位で微分すると外力が得られるという関係式の、ひずみエネルギー密度版だと言えそうです。
※一応計算過程を書きます。
\begin{align*}
&\dfrac{d u(\ve)}{d \ve}
=\dfrac{d}{d \ve}\Pare{\dfrac{1}{2}E\ve^2}
=E\ve
=\sigma\,,\\
&\dfrac{d \widetilde{u}(\sigma)}{d \sigma}
=\dfrac{d}{d \sigma}\Pare{\dfrac{\sigma^2}{2E}}
=\dfrac{\sigma}{E}
=\ve\,.
\end{align*}
実は、この逆変換には問題があります。
線形弾性体の場合これで問題ありません(実際に $\widetilde{u}(\sigma)=u^*(\sigma)$ が成立している。)が、後述の非線形弾性体 $\sigma=E\ve^n\,(n\neq 1)$ の場合には不都合が生じます。
なぜなら、線形の場合と同様に $\widetilde{u}(\sigma)=\dfrac{E}{n+1}\Pare{\dfrac{\sigma}{E}}^{\frac{n+1}{n}}$ のような変換を考えると、$\dfrac{d\widetilde{u}(\sigma)}{d\sigma}=\dfrac{\ve}{n}\neq \ve$となって、\eqref{Cas-thm}が成り立たなくなってしまうためです。
このような不都合が生じない適切な変換が、次に紹介するルジャンドル変換です。
非線形弾性体の場合
一方、1次元非線形弾性体の場合は$\sigma=E\ve^n\,(n\neq 1)$とすると、$u(\ve)=\dfrac{E}{n+1}\ve^{n+1}$となります。
この関数 $u$ に対して、次で定義されるルジャンドル変換(Legendre Transformation)を行います。
\begin{align}
u^*(\sigma):=\ve \sigma-u(\ve)\,. \label{Leg-trans}
\end{align}
ひずみエネルギー密度 $u(\ve)$ に対して、この $u^*(\sigma)$ は補ひずみエネルギー密度と呼ばれています。
これらの関係は次図を見るとイメージしやすいです。
長方形の面積 $\ve\sigma$ から赤い部分 $u(\ve)$ の面積を引いたら青部分 $u^*(\sigma)$ の面積というのが、\eqref{Leg-trans}の言っていることです。

\eqref{Leg-trans}を変形すると、
\begin{align*}
u^*(\sigma)=\ve \sigma-\dfrac{E}{n+1}\ve^{n+1}=\frac{nE}{n+1}\left(\dfrac{\sigma}{E}\right)^{\frac{n+1}{n}}\,.
\end{align*}
これらのエネルギーの間には、次の関係があることは容易に確かめられます。
\begin{align*}
\begin{cases}\dfrac{du(\ve)}{d\ve}=\sigma\,, \\
\dfrac{du^*(\sigma)}{d\sigma}=\ve\,. \end{cases}
\end{align*}
\eqref{Leg-trans}から $u(\ve)+u^*(\sigma(\ve))=\ve\sigma(\ve)$ の両辺を $\ve$ で微分すると、
\begin{align*}
\dfrac{du(\ve)}{d\ve}+\dfrac{du^*(\sigma)}{d\sigma}\dfrac{d\sigma}{d\ve}
=\sigma+\ve \dfrac{d\sigma}{d\ve}\,.
\end{align*}
両辺の係数を比較して、上述の関係式が得られます。
また同様に、ルジャンドル変換 $u(\ve(\sigma))+u^*(\sigma)=\ve(\sigma)\sigma$ の両辺を $\sigma$ で微分しても、同様の関係式が得られます。
このように、独立変数と従属変数の関係が逆転しても変わらないような変換を双対変換と呼びます。
先程の線形弾性体の場合の、ひずみエネルギー密度 $u(\ve)$ と補ひずみエネルギー密度 $u^*(\sigma)$ の関係を図で見てみましょう。
非線形弾性体の場合は $u^*(\sigma)\neq u(\ve)$ でしたが、この線形弾性体の場合は $u(\sigma)=u^*(\ve)$ が成立するので、 $u^*(\sigma)$ と $u(\ve)$ はどちらも $\ve\sigma$ の面積の半分になります。
つまり、変数の変換などを考える必要がないような特殊な場合を考えていたわけですね。

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