高校生がよくつまづくポイントの1つが「絶対値を2つ含む不等式」です。
市販の参考書や問題集の解答では、時間や紙面の都合上いきなり場合分けがされていることが多く、これまで何人か混乱している高校生の方を見かけました。
今回は、それを踏まえて一歩一歩はじめから考えていく方法を書いてみました。
さっそく例題を解いてみましょう。
次の不等式を実数の変数 $x$ について解け。
\begin{align}
\abs{x+3} + \abs{3x-1} > 6\,.\label{ineq}
\end{align}
1. まずは場合分け
まずは場合分けをしましょう。
変数を含む絶対値がある項では変数 $x$ の符号が変わるので、場合分けをする必要があります。
次のような表を書きましょう。
かつ | $3x-1 \geq 0$ のとき | $3x-1 \leq 0$ のとき |
$x+3 \geq 0$ のとき | ① | ② |
$x+3 \leq 0$ のとき | ③ | ④ |
左端の行には第1項 $\abs{x+3}$ の中が正負になる場合を並べて、上端の列には第2項 $\abs{3x-1}$ の中が正負になる場合を並べましょう。
すると、第1項の条件かつ第2項の条件となるような、①②③④の4通りの条件が得られます。
このように、\eqref{ineq}の $x$ の符号について、4つの条件で場合分けができました。
しかし、実はこの場合分けは不完全です。
というのも、「そもそもこの4つの各条件を満たす実数 $x$ は存在しているのか」については、まだ確認していないからです。
不等式\eqref{ineq}を考えるより前に、$x$ が全く存在しない条件を考えても意味がないですよね。
2. 場合分けの各条件を確認
条件を1つずつ見ていきましょう。
- 条件①の確認
「$x+3 \geq 0$ かつ $3x-1 \geq 0$」は「$x\geq \dfrac{1}{3}$」と同値。
これを満たす実数 $x$ は存在し得る。 - 条件②の確認
「$x+3 \geq 0$ かつ $3x-1 \leq 0$」は「$-3\leq x\leq \dfrac{1}{3}$」と同値。
これを満たす実数 $x$ は存在し得る。 - 条件③の確認
「$x+3 \leq 0$ かつ $3x-1 \geq 0$」は「$x \leq -3$ かつ $x\geq \dfrac{1}{3}$」と同値。
これを満たす実数 $x$ は存在しない。 - 条件④の確認
「$x+3 \leq 0$ かつ $3x-1 \leq 0$」は「$x \leq -3$」と同値。
これを満たす実数 $x$ は存在し得る。
さて、改めて確認したことを表にまとめてみましょう。
かつ | $3x-1 \geq 0$ のとき | $3x-1 \leq 0$ のとき |
$x+3 \geq 0$ のとき | ① $x\geq \dfrac{1}{3}$ | ② $-3\leq x\leq \dfrac{1}{3}$ |
$x+3 \leq 0$ のとき | ③ 満たす実数 $x$ はない | ④ $x \leq -3$ |
この表で赤い色の部分が、この問題で考えるべき場合分けの条件です。
ここからは、それぞれの条件で不等式を解いていきましょう。
3. それぞれの条件で不等式\eqref{ineq}を解く
- $x\geq \dfrac{1}{3}$ のとき
$\abs{3x-1}=-(3x-1)\,,\abs{x+3}=x+3$ となることから、不等式\eqref{ineq}は次のようになります。
\begin{align*}
&\pare{x+3} + \pare{3x-1} > 6\,,\\
&\text{すなわち、}\quad x>1\,.
\end{align*}
これに条件 $x\geq \dfrac{1}{3}$ を考慮すると、
\begin{align}
x>1\,.\label{ineq01}
\end{align} - $-3\leq x\leq \dfrac{1}{3}$ のとき
$\abs{3x-1}=3x-1\,,\abs{x+3}=x+3$ となることから、不等式\eqref{ineq}は次のようになります。
\begin{align*}
&\pare{x+3} + \curl{-\Pare{3x-1}} > 6\,,\\
&\text{すなわち、}\quad x<-1\,.
\end{align*}
これに条件 $-3\leq x\leq \dfrac{1}{3}$ を考慮すると、
\begin{align}
-3\leq x<-1\,.\label{ineq02}
\end{align} - $x\leq -3$ のとき
$\abs{3x-1}=-(3x-1)\,,\abs{x+3}=-(x+3)$ となることから、不等式\eqref{ineq}は次のようになります。
\begin{align*}
& \curl{-\pare{x+3}} + \curl{-\pare{3x-1}} > 6\,,\\
&\text{すなわち、}\quad x<-2\,.
\end{align*}
これに条件 $x\leq -3$ を考慮すると、
\begin{align}
x\leq -3\,.\label{ineq03}
\end{align}
4. 各条件で得られた解をまとめて元の問題の解を得る
以上より、\eqref{ineq01}と\eqref{ineq02}と\eqref{ineq03}を(「または」で)合わせて得られる次の範囲が、\eqref{ineq}で求めたい解になります。
\begin{align*}
x<-1\quad \text{または} \quad x>1\,.
\end{align*}
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