高校物理 エネルギーは表で収支を考えるとわかりやすい

工学・物理学
工学・物理学

高校物理のエネルギーに関する問題の解き方についてです。
力学的エネルギーや熱・電気エネルギーの問題は、表で整理してその収支を考えるとわかりやすくなります。

ある系における「入力」「出力」「ロス」の関係を見てみましょう。

物理系における入力・出力・ロスの関係

\begin{align}
\text{系への入力の和} = \text{系からの出力の和} + \text{変化の間で系からロスした量}\label{in-out-loss}
\end{align}

上の式\eqref{in-out-loss}は、系の2つの状態における量を「入力」「出力」として、それらの間の関係について述べた式でした。
一方で、この「入力」「出力」「ロス」の関係は、系が変化する前後の量の間でも考えることができます。

\begin{align}
\text{変化の原因になった総量} = \text{変化した分の総量} + \text{変化の間でロスした総量}\label{in-out-loss2}
\end{align}

左辺にある「変化の原因」は、例えば外から加えられたもの(力や熱)です。
熱力学の問題において熱力学第1法則を使うときは、左辺が内部エネルギーの変化になるようにするべきだという考え方が物理学では主流みたいです。
これは、気体の温度や圧力を変化させると内部エネルギーが変化し、結果として熱量が変化するといった順序が自然だという考え方です。

右辺にある「変化の間でロスした量」は、主に非保存力(摩擦力など)が系にした仕事によって変化したエネルギーの総量のことです。
一方で、これを「入出力のエネルギーとは違う形になって系から出ていくものの量」と捉えた方が、熱力学で熱サイクルの仕事の効率などを考える時には都合がいいかもしれません。

ここからは、各分野の典型的な問題を表を使って整理しながら順番に見ていきましょう。

力学的エネルギーの場合

ある物体が角度 $\theta$ で動摩擦係数 $\mu$ の斜面を、初速 $v_0$ で距離 $\ell$ だけ滑り降りたとき、その斜面方向の速さを求めよ。

摩擦のある斜面を滑りおりる物体の運動

まずは、問題文を見ながら全体の物理量の変化を表にまとめてみます。

運動エネルギー
$K_i$
位置エネルギー
$U_i$
動摩擦力が物体にした仕事
$W_\text{AB}$
初めの状態
(地点 $i=\text{A}$ における)
$K_\text{A}=\dfrac{1}{2}mv_0^2$$U_\text{A}=mg\ell\sin{\theta}$
終わりの状態
(地点 $i=\text{B}$ における)
$K_\text{B}=\dfrac{1}{2}mv^2$$U_\text{B}=0$
変化した分
( $=$ 終 $-$ 初)
$\Delta K_\text{AB}=K_\text{B}-K_\text{A}$$\Delta U_\text{AB}=U_\text{B}-U_\text{A}$$-\mu mg\ell \cos{\theta}$

今考えている系は、以下のようなものです。

  • 入力:地点 $i=\text{A}$ における物体の持つ力学的エネルギー $K_\text{A} + U_\text{A}$
  • 出力:地点 $i=\text{B}$ における物体の持つ力学的エネルギー $K_\text{B} + U_\text{B}$
  • ロス:動摩擦力のした仕事で物体から失われたエネルギー $-W_\text{AB}$
摩擦のある斜面を滑りおりる物体の運動における力学的エネルギーと動摩擦による損失の関係

\eqref{in-out-loss}の「入力=出力+ロス」の関係から、

\begin{align}
(K_\text{A} + U_\text{A}) = (K_\text{B} + U_\text{B}) + (-W_\text{AB})\,.\label{prob01}
\end{align}

表でまとめたことから、

\begin{align*}
&\Pare{\dfrac{1}{2}mv_0^2 + mg\ell\sin{\theta}} = \Pare{\dfrac{1}{2}mv^2 + 0} + \mu mg\ell \cos{\theta}\,,\\
&\,\therefore v=\sqrt{v_0^2 + 2g\ell(\sin{\theta}-\mu\cos{\theta})}\,.
\end{align*}

さてこれで問題の答えは求まりましたが、ここで少し\eqref{prob01}を変形してみましょう。

\begin{align}
(K_\text{A} + U_\text{A})& = (K_\text{B} + U_\text{B}) + (-W_\text{AB})\,,\nonumber\\
(K_\text{B}- K_\text{A}) + (U_\text{B}-U_\text{A}) &= W_\text{AB}\,,\nonumber\\
(\Delta K_\text{AB} + \Delta U_\text{AB}) &= 0 + W_\text{AB}\,.\label{prob02}
\end{align}

\eqref{prob02}は、\eqref{in-out-loss2}で入力・出力・ロスを次のように捉えても得られる式です。

  • 入力:地点AからBへの移動において物体の持つ力学的エネルギーが変化した総量 $\Delta K_\text{AB} + \Delta U_\text{AB}$
  • 出力:系全体において力学的エネルギーが変化した総量 $0$
  • ロス:動摩擦力のした仕事で物体から失われたエネルギー(摩擦熱や音になる) $W_\text{AB}$
摩擦のある斜面を滑りおりる物体の運動における力学的エネルギーの変化と動摩擦による損失の関係

このように見ると、「物体の持つ力学的エネルギーが変化した総量は全て、摩擦熱や音としてロスしてしまった」という捉え方もできます。

今回の問題では、このような考え方をするメリットはあまり感じられないかもしれませんが、次の問題ではどうでしょうか?

電気エネルギーの場合

電気容量 $C$ のコンデンサーを起電力 $V$ の電池で充電するとき、抵抗で生じるジュール熱を求めよ。
(『物理のエッセンス 熱・電磁気・原子』p.64 Ex. より)

コンデンサと抵抗がある電気回路

まずは、問題文と回路を見ながら全体の物理量の変化を表にまとめてみます。

コンデンサーの電気量 $Q_i$コンデンサーのエネルギー $U_i$電池がした仕事
$W_{12}$
発生したジュール熱 $H_{12}$
初めの状態( $i=1$ )$0$$0$
終わりの状態( $i=2$ )$CV$$\dfrac{1}{2}CV^2$
変化した分
( $=$ 終 $-$ 初)
$\Delta Q=CV$$\Delta U=\dfrac{1}{2}CV^2$$W_{12}=V\Delta Q=CV^2$

今考えている系は、以下のようなものです。

  • 入力:状態 $i=1$ におけるコンデンサーの持つエネルギー $U_1$
  • 出力:状態 $i=2$ におけるコンデンサーの持つエネルギー $U_2$
  • ロス:抵抗内の摩擦力がした仕事で系から失われたエネルギー(=ジュール熱)$H_{12}$ と変化の間に系が電池にした仕事 $-W_{12}$ の合計

\eqref{in-out-loss}の「入力=出力+ロス」の関係から、

\begin{align}
U_1=U_2 + \Curl{H_{12}+(-W_{12})}\,.
\end{align}

表でまとめた内容から、

\begin{align*}
&0=\dfrac{1}{2}CV^2 + H_{12}-CV^2\,,\\
&\,\therefore H_{12}=\dfrac{1}{2}CV^2\,.
\end{align*}

また、次のような考え方もできます。こちらの方がわかりやすいかもしれません。

先程と同じ表を使います。
ただし、今考えている系は、以下のようなものです。

  • 入力:電池が系の電荷にした仕事 $W_{12}$
  • 出力:系のエネルギーの変化 $\Delta U$
  • ロス:抵抗内の摩擦力が系の電荷にした仕事(=ジュール熱)$H_{12}$
コンデンサと抵抗のある電気回路におけるエネルギー変化とジュール熱の損失の関係

\eqref{in-out-loss2}の「入力=出力+ロス」の関係から、

\begin{align}
W_{12}=\Delta U + H_{12}\,.
\end{align}

すなわち、「電池のした仕事 $W_{12}=$ エネルギー変化 $\Delta U +$ 発生したジュール熱 $H_{12}$」が成り立つことと、$W_{12}=V\Delta Q=CV^2$ から、

\begin{align*}
&CV^2=\dfrac{1}{2}CV^2 + H_{12}\,,\\
&\,\therefore H_{12}=\dfrac{1}{2}CV^2\,.
\end{align*}

さて、改めて振り返ってみましょう。
\eqref{in-out-loss}と\eqref{in-out-loss2}の2つの考え方で問題に取り組みましたが、出てきた式とその答えは同じものでした。
つまり、これら2つの考え方というのは違う視点から「入力=出力+ロス」の関係を使っていただけで、本当は同じことをやっていたんですね。

熱エネルギーの場合

熱力学の分野は\eqref{in-out-loss2}の視点で「入力=出力+ロス」の関係を使う問題が非常に多く重要です。
長くなるので別ページに分けました。

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